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価値協創ガイダンスについて
オレンジ社のブログを見ていただき、ありがとうございます。(歩道のつつじが色鮮やかに咲いてきました。昼間は暑い日差しもあったり、夏が近く感じるこの頃です。)
前回は、グローバル視点での統合報告書を作成するためのガイドラインの1つ、「国際統合報告フレームワーク」を紹介しました。今回も、同じく統合報告書を作成するにあたって、日本の多くの企業も参考としている「価値協創ガイダンス」について触れてみます。
1.「価値協創ガイダンス2.0」誕生!の背景
正式名称は、
「企業と投資家のための『価値協創ガイダンス2.0(価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0 - サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)実現のための価値創造ストーリーの協創-)』といい、日本の経済産業省が2020年に提唱したものです。
とても長い名称がついていますが、ポイントは、日本発のガイダンスなのです。
昨今、日本企業でも統合報告書を作成する企業が増えてきました。
とはいえ、海外で先行する統合報告書を、過去に一度も作成したことがない日本の企業が作るとなると、いきなり海外のガイドラインに合わせて作って大丈夫なのか、という心配がありますね。
- そもそも、「統合報告書を発行する理由」とはいったい何でしょうか?
- そして、統合報告書には何を記載すればいいのでしょうか?
- また、統合報告書を読む人たちはどんな人なのでしょうか?
そんなモヤモヤしたポイントを、日本の経済産業省が過去の検証などから、このガイダンスで定義づけをしてくれています。
【誕生の背景①】 きっかけは「PBRの低さ」
2008年に起きた「リーマンショック」。このあたりで日経平均が1万円台を割り込むなど、日本の株式が「割安」であることがバレてしまいました。その後多くの企業努力があったものの、残念ながら現在に至るまで、株式市場に上場する企業に、「PBR:Price Book-value Ratio」(株価純資産倍率)という指標において1.0を下回っています。
この「PBR」は、1株当たりの株価と1株当たり純資産額の割合を示す指標で、「1.0を下回る」ということは、あくまで理論上の考えですが、株式を購入するより、今すぐ会社を解散して株主に返した方が価値がある、つまり、「株価が(何らかの理由で本来の価値よりも)割安になっている」ということになります。日本株が割安な状態が続いていることに、経済産業省としても何らかの手段を講じる必要が出てきた、ということでしょうか。
一方で、特に機関投資家側でも、投資家としての行動規範を定めた「スチュワードシップ活動」に基づいて、どう企業を判断したらよいかのマニュアル(手引書)が必要な状況がありました。
この状況に、経済産業省は「企業の収益体質を改善して企業価値を向上させましょう。そのためにまずは、企業の幅広い情報を適切に(投資家に)開示するガイドラインが必要で、それに基づいた『統合報告書』を作るように企業に促しましょう。そうすることで、投資家は企業を判断しやすくなり、企業の価値を高めるきっかけとなりますよ」という意図を踏まえた「伊藤レポート1.0」を2014年に提言します。
ちなみに、この「伊藤」さんというのは、経済産業省が発足した「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の当時の座長を務めた伊藤邦雄氏のことです。
【誕生の背景②】 これからの企業価値を上げるのに必要な情報開示は「無形資産」「ESG」
企業を判断する材料として、投資家は従来財務諸表などの実績を中心に分析してきました。しかし株価が長年割安に放置されたままになっているのには、もっと「(今まで見えてこなかった)本来の価値」を企業が説明し情報を開示する必要があるのでは、と考えるようになってきました。
世界的な流れとして、工場や有価証券などの見える資産だけではなく、企業を構築する「見えない価値:無形資産」にも注目するようになってきました。そして、海外の投資家を中心に「E」(環境)、「S」(社会)、「G」(ガバナンス)に注力している企業の株価のパフォーマンスが、そうでない企業よりも高いと分析し、こうした「ESG」に積極的な企業へ機関投資家が投資する「ESG投資」が盛んになってきました。
こうした現実を踏まえ、さまざまな議論を経て、2017年に経済産業省は企業の「無形資産」への注目、「ESG投資」がこれからの企業の持続的成長につながると考え、「企業には価値を生むストーリー(価値創造ストーリー)を明確にしてもらいましょう」とする「伊藤レポート2.0」を提唱しました。こちらと合わせる形で、企業が「統合報告書」を作る上で、ESGの観点も盛り込んだ情報のフレームワーク「価値協創ガイダンス1.0」が提唱される運びとなりました。その後、2020年に「価値協創ガイダンス2.0」として改訂されます。
【誕生の背景③】 「社会」と「企業」の持続的成長(サステナビリティ)を同期化
「価値協創ガイダンス2.0」には「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」という言葉が副題としてついています。これが「2.0」の大きな特徴です。
気候変動、不透明な世界経済、紛争、パンデミックなど、企業を取り巻く環境が激変する昨今、企業が持続的に価値を高めていくためには、企業努力だけでは限界があります。
そこで企業は、自社取り巻く自然環境、社員、協力してくださるサプライヤー、地域社会、世界に暮らす人々の人権などについてどのように考えているのかを整理する必要が今まで以上に生じてきました。この企業の考えが、この先企業が持続して存在し続けられるものなのかという「企業の持続可能性」を考える時期に来ています。SXは企業の持続可能性を社会の持続可能性と一緒に考え、企業も社会も共に価値を高めていく:同期化するという考えです。この同期化が「トランスフォーメーション」(経営や事業を(時代の変化に合わせて)変革していくこと)に繋がっていく、というものです。
このSXの考えは、2022年8月に経済産業省が「伊藤レポート3.0」で提唱しています。
「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を実現するためのフレームワーク(企業が統合報告書で開示すること)が、「価値協創ガイダンス2.0」の全体像となっています。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の考え方
出典) 伊藤レポート3.0(経済産業省)https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/itoreport3.0_r.pdf
ここで大事なことは、企業の一方的な情報開示ではなく、「投資家等の市場プレーヤー」との「対話」であるとしています。では、ここで言う「対話」とはどういうものなのでしょうか。
企業が「統合報告書」などで情報を発信した後、「市場プレーヤー」が企業へ質問・提案等でフィードバックして経営を再確認し、再び情報を発信する、というサイクルを繰り返すことが「対話」であるとSXはとらえています。
この継続的なフィードバックが「SXの実現につながる」という考えです。つまり、短期ではなく、長期間にわたって、コミュニケーションをとっていくことで社会と企業の相互理解が深まり、企業価値が高まっていく、ということになります。「市場プレーヤー」に何の情報を、どのように開示したらよいのか、をまとめたガイダンスが「価値協創ガイダンス2.0」になります。(このガイダンスが、企業と「市場プレーヤー」などの社会とをつなぐ「共通言語」と言われる所以なのです)
2.「価値協創ガイダンス2.0」の構成
続いて、経済産業省が提唱する「価値協創ガイダンス2.0」についてご紹介します。
以下は「価値協創ガイダンス2.0」全体図です。
出典)「価値協創ガイダンス2.0の全体図」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/map_guidance2.0.pdf
ガイダンスの構成①:要素
上の左から
- ◎ 価値観
- ◎ 長期戦略(①長期ビジョン、②ビジネスモデル、③リスクと機会)
- ◎ 実行戦略(中期経営戦略など)
- ◎ 成果と重要な成果指標(KPI)
- ◎ ガバナンス
となっています。
また、図の下部には「実質的な対話・エンゲージメント」が記載されています。つまり、上の「価値観」から「ガバナンス」までの情報を開示した後に、「投資家等の市場プレーヤー」と対話(実質的な対話・エンゲージメント)を重ねて企業の価値を高めていってください、と推奨する図になっています。
ガイダンスの構成②:「2.0」のポイント「SX」
企業が生み出す価値を説明する「価値創造ストーリー」。この開示が「価値協創ガイダンス2.0」の重要なポイントとなっています。多くの統合報告書にも企業独自の形で掲載されています。
社会が持続的に成長するため、社会の一員である企業は社会の変化をどう捉え、企業の価値とは何か考え、どの方向に向かっていき、具体的に何を行い、どんなリスクを想定し、どんな施策によってリスクを機会に展開していくか ― この一連の「ストーリー」が「価値創造ストーリー」にあたるとこのガイダンスは考えています。
その要素として、
- ◎ 価値観
- ◎ 長期戦略(①長期ビジョン、②ビジネスモデル、③リスクと機会)
を掲載することとなっています。
この要素を企業各社が自社内で検討し説明することで、「社会の長期的なサステナビリティを展望し、企業のサステナビリティと同期化」していく、つまり、社会と企業のつながりを意識し、企業が価値創造ストーリーを展開することで、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を引き起こす原動力になると考えています。
以降の各要素は、
- この「価値創造ストーリー」を実現するための「実行戦略」
- どこまで戦略が達成されたかを数値で見る「成果と重要な成果指標(KPI)」
- 企業が自らを統治する仕組み「ガバナンス」
によって説明することが記載されています。
各項目の詳しい説明は、経済産業省のホームページにある「価値協創ガイダンス2.0」をご参照ください。
この各項目には、それぞれ元となったガイドラインがたくさんあります。
統合報告書等に掲載する項目を「どこまで深堀りして掲載するか」の判断は、同じく経済産業省のサイトに「価値協創ガイダンス2.0とほかのガイドラインとの関係図」があります。
出典)価値協創ガイダンス2.0とほかのガイドラインとの関係図(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/map_guidance.pdf
こちらを参考にされるのも、充実した情報開示のひとつの手段です。
さらに、このガイダンスによって報告・開示した内容(統合報告書・サイト)を、投資家や一般の方がご覧になって、企業へフィードバックし、情報の質を継続的に改善していくというプロセス「対話」が重要である、といったところでしょうか。
そのほかの参考文献
● 日本取引所グループ「ESG情報開示枠組みの紹介」
https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/disclosure-framework/01.html
● 経済産業省「価値協創ガイダンス 解説資料」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/Guidance_Supplement_Japanese.pdf
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
統合報告書でお困りの方は、お気軽にお問い合せください。
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