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IR担当者のためのコーポレートガバナンス・コード改訂のポイント
はじめに
コロナ禍をはじめ企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、持続的成長と中長期的な企業価値向上の実現に向け、各企業がより高度なガバナンスを発揮し、諸課題を認識しスピード感をもち取り組んでいくことが重要になってきています。
金融庁ならびに東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、「コーポレートガバナンス・コード」および「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂がこれまで議論され、2021年4月7日に「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」が公表され、今回のコード改訂の全貌がほぼ明らかとなりました。
政府の成長戦略の一環としてコーポレートガバナンス・コードが2015年に策定され、2018年6月の改訂を経て、今回2度目の改訂となります。フォローアップ会議では、日本企業の環境変化への対応力の向上により、企業価値を高めるとともに、内外投資家の評価を得るため、コード改訂に向け審議を続けてきました。
コーポレートガバナンス・コードの基本構造
コーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会の責務」「株主との対話」と、それに紐づく31の「原則」・42の「補充原則」の三層構造で構成されています。今回はさらに5つの補充原則が新設され83の原則となりました。
各市場区分に求められるガバナンス水準
現在の東証の市場区分は見直され、2022年4月より新たに①プライム市場、②スタンダード市場、③グロース市場の3区分に再編されます。それぞれの市場区分のコンセプトに基づき、求められるガバナンスの水準が異なってくるため注意が必要です。
① プライム市場
多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値にコミットする企業向けの市場。
② スタンダード市場
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場。
③ グロース市場
高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場。
東証は投資家との建設的な対話における共通基盤として、各原則の「コンプライ・オア・エクスプレイン」を義務化しており、各原則を「実施するか」、それとも「実施しない(実施していない)理由を説明するか」を各上場企業が選択します。
コーポレートガバナンス・コードの適用範囲としては、プライム市場、スタンダード市場ではすべての原則が適用され、グロース市場では基本原則のみが適用されます。
①プライム市場 | ②スタンダード市場 | ③グロース市場 |
---|---|---|
全原則の適用 (より高い水準) |
全原則の適用 | 基本原則の適用 |
コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント
今回の改訂案においては大きな3つの柱があります。①事業環境が不連続に変化する中での取締役会の質の向上、②新たな成長実現のための人材の多様性の確保、③サステナビリティを巡る課題に対してはリスクとしてのみならず収益機会として積極的・能動的に対応することの重要性が高まっています。
コーポレートガバナンス・コード改訂の3つの柱
① 取締役会の機能発揮
- プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任を検討)
- 指名委員会・報酬委員会の設置(特にプライム市場上場企業は、構成員の過半数を独立社外取締役が占めることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示するべき)
- 経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、「スキル・マトリックス」など経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役が有するスキル等の対応関係を開示すべき。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである
② 企業の中核人材の多様性の確保
- 管理職においては、女性・外国人・中途採用者の登用等、多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示し、その状況を開示すべき
- 中長期的な企業価値向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべき
③ サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み
- サステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定するとともに、自社の取組みを適切に開示すべき
- 特にプライム市場上場企業は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量を充実させるべき
今回のコーポレートガバナンス・コードでは、企業の経営課題の解決に向け、適切なバックグラウンドを持つ取締役を配置することが重視されており、それが取締役会の実効性にも大きく左右するものと考えられています。
そのため、近年の招集通知や統合報告書では、取締役の独立性やジェンダーという外形的な要素だけでなく、取締役の持つ経験や素養をまとめた「スキル・マトリックス」についても開示を行い、取締役選定の合理性について対外的に説明する動きが広がってきています。
また、今回のコーポレートガバナンス・コードの補充原則3-1②において、英語による情報開示の必要性について言及されていることも、注目すべきポイントでしょう。
「上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである」(補充原則3-1②)
新たな市場区分において「プライム市場」を目指す企業の場合、開示書類について英語による情報開示が義務化される可能性が高いと言えます。
これまで国内の株主・投資家に対して日本語でのみIR情報の開示を行ってきた上場企業でも、プライム市場を目指すのであれば、早い段階から英語での情報開示に備えておくのが好ましいと言えるでしょう。
今後のスケジュール
コーポレートガバナンス・コード改訂に関連する今後のスケジュールは以下が想定されます(2021年6月1日時点)。
2021年6月(予定) |
|
---|---|
2021年6月末日 (移行基準日) |
|
2021年9月~12月 (移行手続き期間) |
|
2022年4月4日 | 新市場区分への一斉移行 |
まとめ
コーポレートガバナンス・コード改訂についての概要を取りまとめてみました。新市場区分をも見据えた中での今回の改訂はグローバル市場における企業としての競争力、中長期的な企業価値の向上、投資環境の変化へ対応していくひとつの道標となるのではと考えられます。依然としてコロナ禍という厳しい環境が続く中、来年4月の新市場へ向け企業が改訂コードに則りどのようなビジョンや戦略を描いていくのか、私たちも自らの事業活動を通じながら注視していきたいと考えています。
参考資料
- 「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(金融庁)
- 「コーポレートガバナンス・コードの全原則適用に係る対応について」(東京証券取引所)
- 「新市場区分の概要等について」(東京証券取引所)
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